北海道日高町に全国から生徒が集まる学校があります。夜間定時制の町立日高高校です。
なぜ子どもたちは日高を目指すのか。そこには他にはないユニークなカリキュラムと、温かい寮の存在がありました。
北海道日高地方の夏ー。大自然のなかで学ぶ高校生たちがいます。
(沙流川に飛び込む生徒たち)
「ロープ!」
夜間定時制の日高町立日高高校。ユニークなカリキュラムにひかれて、全国から生徒が集まります。
関口 佑さん(1年):「地元は埼玉です」
都会を離れ、ここで新しい自分を見つけようとする女子高校生。
矢田 眞白さん(2年):「中学2年生の終わりくらいから少しずつ(学校に)行けなくなって。(新しい環境に)思いっきり飛び込んだ感じ」
学校のもう一つの魅力が、大家族のような寮生活です。母親代わりの寮母さん。
寮母 三浦 和子さん:「どれぐらい愛することができるのかが、自分に課せられたもの」
挑戦する子どもたちと見守る大人が紡いだ、夏の物語です。
(朝、各部屋の戸をたたいて回る)
男性生徒:「飯(めし)!」「(Q.起こすのは毎朝の日課?)いつもです」
日高高校の学生寮。
夜間定時制の学校が始まるのは午後5時すぎですが、生徒たちは朝からある場所に向かっていました。
福本牧場の関係者:「よろしくお願いします」
生徒たち:「お願いします」
授業が始まる前に行われるのが、日高町の教育委員会が主催する体験学習、「産業学習」です。
この日はプロのカメラマンの指導を受けながら、写真の技術を学びます。
こちらは沙流川を利用して救助方法を学ぶ時間。
高校のモットーは、昼は大自然で学び、夜は学校で学ぶ。
子どもたちは産業学習を通じて、アウトドアガイドやスキーの資格取得を目指します。
この産業学習も学校では単位に認定します。
全校生徒は26人。ユニークなカリキュラムにひかれて全国から生徒が集まります。
矢田 眞白さん(2年):「こう見る景色とファインダーをのぞいて見る景色が、同じだけど違う」
産業学習で写真を学ぶ2年生の矢田眞白さん、16歳。
学校で唯一の女子生徒です。
矢田 眞白さん(2年):「何か一つ熱中できるのが、自分の中ですごく楽しくて」
寮で生活する矢田さん。ふるさとの札幌市を離れ、日高高校に進学した理由を教えてくれました。
矢田 眞白さん(2年):「中学2年生の終わりくらいから、ちょっとずつ(学校に)行けなくなって。気持ちが落ちちゃって、また体調が悪くなる。その繰り返し辛かった」
中学生までは周囲との関係に気を使い過ぎてしまい、1人で行動することができませんでした。
矢田 眞白さん(2年):「思いっきり環境を変えちゃえば、自分も変わるかもしれないと、(日高に)思いっきり飛び込んだ」
生徒の中には、中学校までに不登校を経験した子が多くいます。
松澤 隆英さん(2年):「小学校5年生くらいから(学校に)行けなくなり、中学校はほとんど行っていない。周りになじめていないのがわかっていたので(学校に)だんだん行けなくなった」
大坪 歩さん(1年):「(中学時代に)いじめみたいなのがあり、嫌だなと思って(学校に)行かなかった」
生徒:「釣りに行ってくる。きょうこそ行く」
寮母 三浦 和子さん:「(川の)中に入っちゃだめ。冷たいからね」
生徒を見守るのが寮母の三浦 和子さんです。
学校では音楽の講師として、寮では母親代わりとして生徒と向き合っています。
寮母 三浦 和子さん:「どこまであの子たちを愛していけるかな」
ひとりで日高高校に飛び込んだ矢田さんにとって、三浦さんは心強い存在です。
矢田 眞白さん(2年):「三浦さんがいないと、ここまで日高で生活できていなかった。すごく大きい存在です」
寮母 三浦 和子さん:「仲良くしてもらっているよね。眞白ちゃん優しいから」
三浦さんも生徒同士の人間関係に不安を感じた時には、矢田さんに相談します。
寮母 三浦 和子さん:「(眞白さんは)誰よりも頼りになる相棒。わからないことがあったら、すぐ眞白に聞いてもらう」
矢田さん、この寮で大人から頼られる経験をしました。
少しずつ、自分の居場所を見つけています。
日高高校 谷 尊仁 校長:「不登校の生徒が多いですので。世の中に出ると人とコミュニケーションをとらなければならないですが、そのコミュニケーションがうまくいかないと心が折れてしまう…。人との関わり方を、3年間で少しでも勉強してもらえたら」
7月10日の学校祭「こもれび祭」。矢田さんは司会を担当しました。
中学校までは、考え方や自分の外見を周りと比べて落ち込むことがありましたが、日高高校に来て変わったと感じています。
矢田 眞白さん(2年):「ひとりで何でもできるようになったし、自信もついた。(日高高校に来なかったら)この性格にはなっていなかったし、ネガティブ思考でずっといたと思います。(今は)すっごく楽しいです」
変化を感じているのは、ほかの生徒も同じです。
生徒会長 谷藤 飛翔さん(3年):「小中学校は、人の前に立つことをやってこなかった。(日高高校への進学を)機にやってみてもいいかなと思い(生徒会長に)立候補してみた」
松澤 隆英さん(2年):「2020年は皆勤賞をもらった。学校に行けるようになったことが一番大きい」
全国から町に子どもが集まり成長していく姿は、地域の人たちの希望です。
参加した町民:「毎年"こもれび祭"に参加している。生徒たちも楽しそうにやっていてよかったです。町民としてもすごく応援しています」
参加した町民:「地域の人たちも(生徒たちを)みんな知っているので、大事に育てていきたい」
寮母 三浦 和子さん:「かわいいだけじゃなくて、ダメなことはダメと言えること。良いことがあったら一緒に喜べたらいい」
寮母さんの愛情と日高の自然に囲まれて育つ、高校生たち。
新しい自分に出会う日々はまだ始まったばかりです。
20 окт 2024