天皇陛下は21日、セネガルで開催された「第9回世界水フォーラム」の開会式にビデオメッセージを寄せ、英語でお言葉を述べられた。お言葉の和訳全文は次の通り。
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マッキー・サル セネガル共和国大統領閣下
ロイ・フォーション 世界水会議会長
御出席の皆様
「平和と発展のための水の安全保障」をテーマとし、水と緑の豊かな文化と歴史を育むセネガル共和国ダカール市で開催される第9回世界水フォーラムにビデオで参加できることをうれしく思います。お招きいただいたマッキー・サル大統領閣下に感謝するとともに、新型コロナウイルス感染症の影響による様々な困難に直面する中でこの会合を実現されたセネガル共和国政府、世界水会議、そして全ての関係者の皆さんに深い敬意を表します。
今回の世界水フォーラムは、第1回がモロッコで開催されて以来、4半世紀ぶりにアフリカで開催されますが、経済社会が急速に発展しているアフリカにおいても水は大変重要な役割を果たしています。アフリカは年3%超の速さで経済成長を果たし、都市人口の増加率は約3.6%と世界平均の約2倍となっています。このような中、アフリカの電力需要の20%近くを賄う水力発電は2040年までに現在の3倍近くに増加することが予測されるなど、食糧、飲料水、衛生、電力といった主要な水分野で旺盛な需要が見込まれます。経済社会の急速な発展と水需要の増加が著しいアフリカはまさに水分野で注目すべき地域といえましょう。私も、2010年にガーナ国を訪れた際にアコソンボダムを見た時、その規模の大きさに驚くとともに、ダムで発電された電力が近隣諸国にも輸出されていることを聞き、アフリカにおける水力発電の重要性を認識しました。
一方、本フォーラムのテーマである「平和と発展のための水の安全保障」を考える上では、その国・地域の経済社会の発展だけでなく、気候変動のような地球規模での課題にも目を向ける必要があります。私は、2007年から国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)の名誉総裁を8年間務めました。このUNSGABがその基調提言書である「橋本行動計画」の中で提言し、実現したのが2008年のアフリカ連合(AU)水サミットです。この時採択されたAU水サミット宣言は、気候変動による水資源への脅威に対処するため、各国の気候変動適応策を強化することを謳(うた)っています。AU水サミット開催地であったエジプトのシャルム・エル・シェイクで、本年開催される国連気候変動枠組条約第27回締約国会合(COP27)においても、AU水サミット宣言の精神が受け継がれ、水と気候変動に関する議論が更に深まり、具体的な行動につながっていくことを期待しています。
さて、現在、世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症により、私たちは水と衛生が健康の礎であることを実感しました。また、災害の被災地や紛争地における水の確保 も大きな問題であると思います。持続可能な開発目標(SDGs)の一つである基本的な水と衛生への完全なアクセス達成に向けた取組の加速が必要となっています。そして、先ほど述べた気候変動など地球規模の課題や感染症といった、繰り返して生じる脅威に対処しながら、水と衛生、水と食糧・エネルギー分野の連携強化、水災害、水環境、統合水資源管理などの様々な水に関する課題を解決するために、水分野を超えた各分野とも連携して、包括的、継続的、柔軟に取り組むなど、私たちがいかに貢献していけるかが問われています。
その意味で、来年開催される国連2023水会議は、1977年のマルデルプラタ会議以来の、水問題を中心に議論する、水の将来にとって重要な国連会議となるでしょう。その主要な準備会合として、ここダカールでの様々な議論が、アフリカ、そして地球規模の水をめぐる課題の解決に向けた取組に新たな風を吹き込み、更に来月日本の熊本で開催される第4回アジア・太平洋水サミットへ継承され発展することによって、国連2023水会議での実りある議論と行動につながっていくことを期待しています。
海洋、大気、大地を巡る水は、等しくその過程で全ての生き物を育みます。地球上の全ての人々が、互いを思いやりながらこの恵みを分かち合い、共に繁栄と幸福の道を歩んでいくことを強く願います。私たちは、水問題の解決に向けた長い道のりのいまだ半ばにいますが、一人一人が人と水との関わりの歴史や経験から学び、様々な地域における良い事例など、そこから得られる見識を共有し、それぞれの水文化を育んでいくことが、地域の水問題を解きほぐし、平和と発展につながっていくものと信じています。今回の会合とその先にある多くの対話と行動の機会を通じて、水問題をめぐる国や地域の境界を越えた相互理解が進み、社会がつながり、人々がお互いを認め合う、平和な世界につながっていってほしいと願っております。その確かな歩みを願いながら、私も今後とも水問題に関心を寄せていきたいと思います。
ありがとうございました。
6 сен 2024