法話：弱さこそ可能性 

法話：小池陽人の随想録　～弱さを絆に～
先日、女子プロレスラーの木村花さん（二十二歳）が亡くなりました。木村さんは、「テラスハウス」というリアリティーショーのテレビ番組に出演していて、その番組内の言動が原因で、インターネット上で誹謗中傷を受けていたと言います。
木村さんのプロレスラーとしての人気と、番組の知名度の高さにより、このニュースは、日本だけでなく、世界中で報じられました。多くのメディアが、木村さんがSNS上の誹謗中傷によって心を痛めていたことが、死の大きな原因ではないかと伝えています。
この報道を受けて、様々な反応がありました。元サッカー日本代表の本田圭佑選手は、「誹謗（ひぼう）中傷をする人へ」とするツイッターを更新。以下のように記しています。
「弱い人を狙うな。誹謗中傷はやるなって言ってもなくならないし、なのでやってもいいからちゃんと強い人を狙うこと。『結論』俺んところに来い。そして末永く誹謗中傷のプラットフォームとして使用してください」（原文まま）
このツイートがインターネット上では絶賛されていたというのですが、私はこの本田選手の言葉に賛同できません。自殺した方が、弱かったと言っているように聞こえてしまうからです。誹謗中傷による自殺を、自殺した人の弱さのせいにしては絶対にいけないと思うのです。やはり、悪いのは誹謗中傷であり、そして、なぜ自分に関係のないテレビの中の人に対して、ここまで酷い言葉の暴力を浴びせる人が多くいるのか。そのような問題の根源と向き合う必要があると思います。
精神科医の松本俊彦さんは、ラジオ番組で次のような趣旨のことをおっしゃっていました。「自分が今までかかわってきた自殺された方の中には、心の強い人が多かった。心が弱ければ、すぐに心が挫けて、周りに助けを求めることができる。自殺される方の多くは、助けを求めず、一人で我慢をし続け、最後の最後まで一人で責任を負い、自殺に至ってしまう。本当の強さは『弱さ』なのかもしれません。」
世の中の多くの人が思う「強い人」のイメージと真逆の「弱音を吐く」や「助けを求める」「諦める」「逃げ出す」というような行為が、自分の命を救うのだと感じました。真面目で強い人ほど、そういった行為を避ける為、自分ひとりでストレスを溜め込んでしまうのだと思います。
北海道の浦川に精神障害者の活動拠点「べてるの家」という場所があります。精神障害の方たちの共同生活は、毎日トラブルの連続です。問題だらけの毎日ではありますが、べてるの家では、日高昆布の直送販売や、介護用品の販売事業など、様々な事業を継続させています。
その理念の中に「弱さを絆に」という言葉があります。精神障害を一言で定義するならば、「人付き合いに困難を生じる病」であると代表の向谷地さんはおっしゃいます。幻聴、幻覚などに悩まされたり、根気が続かなかったり、理解力や記憶力が低下したりして、周りに迷惑をかけてしまい、それがトラブルのもとになる。彼らは決してわざとそうしているのではなく、彼ら自身が誰よりも自分に落胆し、不甲斐なさを感じて暮らしているのです。
それらの「弱さ」は、病気の症状の一つとして治療や訓練の結果、克服すべきものと捉えられてきました。べてるの家では、彼らに弱さを克服することを求めませんでした。まずは彼らの弱さをありのままに認めるところから始めたのです。そして、彼ら自身が、自分の「弱さ」を周りに伝えていきました。これが「弱さの情報公開」です。
例えば、根気が続かず作業がたったの三分しか続かない方は、それを克服しようとはせず、自分が三分しかもたないことを、周りに伝えていきました。そして助っ人を募るのです。すると、その人を助けようと人が集まってきてくれたのだそうです。
一人の「弱さ」があって、それを周りが肯定することによって、人を繋ぐ「絆」が生まれていったのです。「弱さの情報公開」をすることによって、助け合いが生まれていく。向谷地さんは、おっしゃいます。「弱さとは、強さが弱体したものではない。弱さとは、強さに向かうための一つのプロセスでもない。弱さには弱さとしての意味があり、価値がある。」
誰しもが持っている自分自身の弱さ。ついその弱さを隠したくなったり、ごまかしたくなったりしてしまいます。しかし、「弱さ」そのものが、その人が持つ可能性であり魅力であると、「べてるの家」の人々のお話から学ばせていただきました。
生産性（効率）を求められる今の社会では、弱い自分を出せないことが多いように感じます。それが息苦しさとなって、人々は寛容さを失い、ネット上で広がる誹謗中傷の大きな原因の一つになっているような気がしてなりません。お互いの弱さを認め合える社会の実現を願いながら、日々祈りを続けて参ります。
【毎月、須磨寺にて法話をさせて頂いております】
毎月18日の10時からの護摩祈祷と写経会、20日と21日は11時半から奥の院にて、そして、21日は14時から護摩祈祷をさせて頂き、法話をさせて頂いております。
【須磨寺オフィシャルサイト】
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■楽曲提供：小馬崎達也
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