その宿の玄関をくぐると、軽やかな音色が聞こえてきた。三味線を弾く女性が一人、行燈に照らされた階段や回廊が取り囲む浮き舞台に座っている。
「鬼滅」の世界だったら、琵琶を持つ女の鬼が陣取る、あの浮き舞台だ。
福島・会津にある芦ノ牧温泉の旅館「大川荘」のエントランスには、荘厳な吹き抜け空間が広がっていた。ここが累計発行部数1億5千万部を超えた漫画「鬼滅の刃」に登場する「無限城」に似ていると話題になっている。
無限城は主人公の敵である鬼たちの居城。無数の階段があり、中央に琵琶を奏でる女の鬼が居座る。格子戸や障子などイメージは重なる。ファンなら鬼滅の世界に浸れるだろう。
昭和28年創業の大川荘に現在のロビーが完成したのはバブル期の平成元年。木をふんだんに使ったきらびやかな雰囲気の中、生演奏で宿泊客を出迎えたかったという。
無限城に似ていると、インターネット上で盛り上がり始めたのが、昨年3月ごろ。しかし、コロナ禍で、客を満足に迎え入れられない日々が続いていた。10年前の東日本大震災で受けた打撃から、ようやく立ち直った直後の災難だった。
この10月、緊急事態宣言も明け、旅館にようやく活気が戻ってきた。客には、鬼滅ファンも多い。「本当そっくり」「鬼がでてきそう」との会話が飛び交う。登場人物のコスチュームを着て楽しむ姿もある。
実際に、モデルなのかどうかは不明だ。大川荘には取材はなかったという。
玉川福男総支配人(67)は、「以前よりも若い家族連れや20代のお客さまが増えた。また来てもらえるように魅力ある温泉街にしていきたい」と話す。
22 окт 2021