2023年の東京大学五月祭でたたら製鉄が行われるということで、見学してきました。
毎年恒例で行われているようなので、関心がある方は行ってみてください。
昔のたたら製鉄の様子は、ジブリ映画の「もののけ姫」の中で描かれています。主人公のアシタカが「たたら場」で「たたら」を踏んで女たちを驚かせるというシーンがありました。
そう、「たたら」というのは、足踏み式のふいごのことなんです(ふいごは炉に空気を吹き込む装置)。「たたらを踏む」という慣用句はこの「たたら」からきています。
しかし今回の操業では、足踏み式のふいごではなく電気モーターで動く文明の利器、ブロワーが使われています。ですから実はこれを「たたら製鉄」というのはちょっと変なのです。しかしこの製鉄方法の本質的な特徴は、現代の一般的な製鉄方法との比較で、現代製鉄が「間接製鋼法」であるのに対して、この操業は「直接製鋼法」であるという点であり、その点は古来日本で行われてきたたたら製鉄と同じの製鉄方法です。「古式製鉄法」というより「たたら」の方が通りがいいので「たたら製鉄」と言っています。
たたら製鉄が「直接製鋼法」で現代製鉄が「間接製鋼法」というと、たたらの方がエラいような印象を受けるかもしれませんが、たたらは非常に製造効率の悪い製鉄方法です。
現代の高炉を使った間接製鋼法は、還元された鉄が溶けた状態で炉の底部から流れ出てきます。溶けるほど温度が高くなった鉄は、酸素が取れたかわりに炭素を非常に多く取り込んでしまいます。この状態の鉄を「銑鉄(せんてつ)」といいます。
炭素含有量が多いままで冷やして固めると、硬すぎて、削ったり曲げたりする加工がしづらく、また、割れたり折れたりしやすく脆いです。
そのため一般的な工業材料として使える「鋼」の状態にするために、酸素を除去(還元)したあとの溶けた鉄から炭素の量を減らす作業(脱炭)が必要です。この脱炭工程が必要なので、間接製鋼法と言われます。
これに対してたたら製鉄はドロドロに溶けるほど高温にせず、固体のままで炭素量が多すぎない「鋼」にするので、直接製鋼法と言われるわけです。
しかし固体のままで鋼になるということは、還元された鉄が炉の底から流れ出てくることも無いので、完成した鉄を取り出すために一回の操業ごとに炉を壊さなければならないのです。
操業のたびに炉を作り直す手間もかかりますし、新しく作った炉を毎回常温から製鉄する1500度ぐらいの温度まで加熱し直す必要もあるので、燃料効率も悪いのです。。
現代製鋼法の高炉では下から溶けた鉄を取り出しながら上から材料と燃料を投入すれば、温度を上げ下げすることなくずっと操業し続けることができます。高炉そのものの耐用年数がくるまで、数十年間にわたって24時間365日無休で操業し続けられるのです。
だから、たたら製鉄は作業効率や燃料効率がむちゃくちゃ悪い、SDGsにケンカを売るような製鋼法なのです。
そんなたたら製鉄ですが、西洋で高炉による製鉄方法が確立される前は、世界でトップレベルの優秀な製鉄方法だった時代もあったようです。
現代でも、日本刀剣保存協会という協会が、年に一回、島根県でたたら製鉄の操業を行っています。それは日本刀の材料を作ることが目的で、今回のような規模ではなく、もっと大量の砂鉄を三日三晩かけて一気に還元するというもので、取れる鉄の量も数トンという単位になります。
日本刀も、機能だけを考えれば現代製鋼法で作った鉄で作刀することができますが、現代の日本の法律では本来武器とすることを目的とした刃物の製造が原則として禁止されていて、日本刀は「美術刀剣類」つまり美術品として製造することが認められているので、美術品として価値のある刃文や鍛え肌といった刀身に浮かび上がる紋様がなければならず、たたらで作られた鉄でなければこういった紋様を出すことが難しいようなのです。
ちなみによく耳にする「玉鋼」というのは、この動画でできたものよりももっと大きな鉄の塊をハンマーなどで小さく割って、それを品質ごとに選り分けた中の、品質が良い(不純物が少なく炭素量が多い)部分のことです。
たたら製鉄でできた鉄がぜんぶ玉鋼というわけではありません。
たたら製鉄で還元された未選別の鉄は「鉧(けら)」と呼ばれます。鉄の母と書きます。この動画で最後にできたものは鉧の状態です。
21 май 2023