出勤困難症を引き起こす代表的疾患である「適応障害」の”きっかけ”についてお話します。
出勤困難症を引き起こす病気の代表は、適応障害とうつ病。
うつ病の主な原因が、内因性の「脳の病気」であるのに対して、適応障害の主な原因は、外因性の“きっかけ”と、心因性の“捉え方”です。
業務上の出来事が“きっかけ”となって、気分が落ち込んで出勤困難となった人の多くは心療内科を受診します。
そこで、医者から、「抑うつ症状が強いので仕事を休んだほうがいいでしょう」と勧められ、「適応障害に伴う抑うつ状態」という診断名で診断書を書いてもらい、一定期間、仕事を休むことになります。
「療養休暇」と言って、期間は1カ月から3カ月のことが多いです。
療養休暇を始めても、抑うつ気分はすぐには回復しません。
『みんなに迷惑をかけて申し訳ない』という、罪悪感、
『弱みを見せてしまった』という、羞恥心、
『仕事を休むんじゃなかった』という、後悔、
加えて、
『早く病気を治さなければ』
『早く復帰しなければ』
などといった、責任感・焦燥感などで頭はいっぱいで、抑うつ気分はなかなか改善しません。
それでも“きっかけ”から離れられたことで、気分は上がり始めます。
気分が上がるのは喜ばしいことのように思えますが、本人は素直には喜べません。
気分が上がる = 復帰が近づいた。
『同僚は受け入れてくれるだろうか』
『病気は悪化しないだろうか』
『以前のように働けるだろうか』
そんなことが頭に浮かんで、『職場復帰できるんだろうか』という不安や緊張が大きくなります。
さらに問題となるのが、「恐怖」です。
『また、あそこに戻るのか』という恐怖です。
診断書には、「○月○日まで休める」。とありました。言い換えると、「○月○日には職場復帰しなければいけない」ということです。
『Xデーまで、あと何日しかない』というカウントダウンが、療養休暇初日から始まっているんです。
適応障害に陥る人は、「まだ何日休める」と楽観的には考えられず、「あと何日しか休めない」と悲観的に考えてしまいやすい人です。
そもそも楽観的に考えられたら、出勤困難症になどなってないんですね。
出勤できなくなった“きっかけ”の対策をとってもらえなくて、職場の様子がなにも変わらなさそうであれば、『またあそこに戻るのか』という恐怖や不安や緊張が、Xデーが近づくにつれて大きくなっていき、復帰できなくなったり、なんとか復帰しても、なにも変わっていない職場の様子に触れて、再び出勤できなくなってしまう。
適応障害による出勤困難症の多くは、このいずれかの経過をたどるようです。
そこで、スムーズな職場復帰のために必要となるのが“きっかけ”の対策です。
出勤困難に陥っても“きっかけ”に対する対策をしてもらえたら、職場復帰に対する不安・緊張・恐怖はさほど大きくならずに、スムーズな職場復帰ができることになります。
ところが、残念ながら“きっかけ”の対策だけでは不十分なんです。
なぜなら、
今回、出勤困難に陥った“きっかけ”とは別の“きっかけ”が現れたら、再び出勤困難に陥ってしまう。そんな、同じことの繰り返しなんです。
「悩みに対する戦略を知らないビジネスマンは若死にする」(仏の外科医・解剖学者・生物学者で、1912年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、アレキシス・カレル)。
「ストレスは捉え方次第で軽減させることができる」(米の心理学者、リチャード・ラザルス)。
そこで重要となるのが、今回の“きっかけ”の対策だけではなくて、根本的な“捉え方”、を変えることです。
それができれば、どんな“きっかけ”が沸き起こったとしても、気分が落ち込んで出勤困難になる、などということはなくなります。
このように、スムーズな職場復帰のためには“きっかけ”への対策をしっかりして、本人の気分の落ち込みが改善してきたら、本人が“捉え方”を変える努力をすることが重要になります。
心療内科医はいずれにも関わって協力します。
#出勤困難
#適応障害
28 июл 2023