外から来る人の起点となるメインターミナル駅を路線の中心に据える路面電車は案外、少ない。歴史ある街の中心は城や港などで、路面電車は人の暮らしに寄り添い路線を広げる。結果、街にとって新参者の鉄道駅は路線の端っこにぶら下がるケースが多いのだ。
もちろん例外もある。富山市に展開する富山地方鉄道は路線の中心に新幹線と在来線の複合駅、JR富山駅がどっかり座る。
これには理由がある。もともと富山の市街地は駅南側で北側は古い港町が広がっていた。路面電車は駅の南北にそれぞれ、別の路線を広げた。ところが昨年、駅の高架化工事が完成。2路線がつながり、富山駅が路線の中心になったのだ。
北陸新幹線を降りると、改札のすぐ先に小ぶりな路面電車の車体が見えた。なるほど、新幹線と接続する路面電車は珍しい。
向かったのは神通川に架かる富山大橋を渡る路線。橋に差し掛かると、車窓に残雪を抱く剣・立山連峰が迫ってきた。運転士の正満敬仁さんは「くっきり山が見えた日は今日もいい日だと心が弾む」と話してくれた。
春に絶景を生む雪だが、冬の運行には難敵だ。特に今年1月の大雪では除雪が追い付かず、5日間運休した。除雪車が行けない場所は社員総出で雪を掃き、再開にこぎつけた。その間、市民から「早くしてもらわんと困る」とお叱りや激励の電話が相次いだという。これも、路面電車が無くてはならない存在という証しだ。
16 май 2021